身体を斜めにして、やっとの思いで電車の吊り皮に、ぶらさがっている。わたしの顔のすぐ前に、若いお母さんにおんぶした、赤ん坊の顔があった。
 生まれて一年ぐらいかな?ねんねこにくるまっているので、男の子か女の子か、ちょっと見当がつかない。
 その赤ん坊が、わたしの顔を見てニッコリと笑った。あんまり可愛かったので、わたしも笑い返した。今度は赤ん坊が、クックッと声を出して笑った。その声に気がついて母親が、うれしそうにわたしに微笑んだ。
 見ず知らずの大人のわたしが、どんな人間なのか、わたしがいま何を考えているのか、いま何のためにこの電車に乗っているのか。この赤ん坊にも母親にもわからない。赤ん坊は世間の垢にまみれたこのわたしを、全く疑わない。ただただ無心。ただただ無心。
 無心の赤ん坊の笑いに誘われて、わたしも思わず無心に笑い返した。そして、母親も無心に微笑んだ。
 無心と無心と無心のふれ合い。身体がよじれるほど温み合う電車の中にも、こんな気持のいいひとときがあったのです。
 わたしたちは、この純粋で無垢なこころを、いつの日か、忘れ薄れていってしまうんですね。いつも初心。馴れずにいたいものです。認知症の障害を持った方々は、いつも純粋で無垢な感情で、いま、ここにある「いのち」を精一杯に生きているんですね。
 アウルが始まってから早くも三年、登別館が姑まってからは一年が過ぎました。あらためて、過ぎ去った月日を振り返り、その責任と使命を新たにし、感動の耐えない日々を共に過ごしていきたい、そう心に決めてスタッフー同歩んでいきます。これからもよろしくお願い申し上げます。感動から感謝へ。合掌

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