今地 しのぶ

  偶然なのでしょうが、私の入社日とKさんの入居日が同じでしたね。だからなのかも知れません、正直Kさんに対し特別な思いが私の中にはあります。Kさんもまだ慣れていなくて、私も同じでした。二人でよく散歩に出掛け、ベンチに座り、昔話を聞かせてくれましたね。海外旅行の話、浮気がばれてダイヤモンドを交わされた話、今は他界している奥様の話。私にとっても、Kさんにとっても、Kさんとの散歩は、ある意味、新鮮な空気が吸えた時間でした。何より、Kさんに特別な思いがあったのは、実は亡くなった父に似ていたからです。19才で父を亡くした私には、年老いた父の面影とKさんが重なり、二人で散歩や、たわいも無い会話が出来て本当にうれしかったのかも知れません。きっと父が生きていたら、こんなおじいちゃんになっていたのかなと、Kさんを見ていました。今は、歩く事もままならず、会話も出来なくなり、すべてにおいて介助が必要なKさん。ジッと私の顔を見て、返事だけですが私の問いかけに答えてくれますよね。きっと、すべてわかっていて、聞いてくれているんですよね。わかっているんですよね。若かった私は、亡くなった父に対して、優しく出来なかった事が多々あります。Kさんと、亡くなった父をだぶらせて接している事が、私自身良い事なのか、悪い事なのかわかりませんが、心の中で少しだけ、勝手な親孝行の真似事をさせてねとつぶやいています。利用者と職員という関係ではありますが、ちょっとだけ許して下さい。お風呂が大好きなKさん、気持ち良さそうにお風呂につかっている顔を見ていると、また入ろうと約束してしまいます。何も云いませんが、きっと「うん、頼むよ」って言ってくれている気がします。何も言葉は、いらないですよ。無理に返事しなくてもいいですよ。たまに、たまにでいいですから、又、私の顔を見て笑って下さいね。腰に筋肉付けて、いつでもKさんを平気で支えられるように鍛えます。いつも、私の心の中の父になってくれてありがとうございます。

 昨年、一般社団法人 北海道認知症グループホーム協会の主催で行われました『手紙』のコンクールで、見事入賞をいただいた、伊達アウルのスタッフ 今地しのぶさんの「手紙」をご紹介させていただきました。今回、全てのスタッフが応募し、一つひとつ、皆、想いのこもった素敵な手紙ばかりでした。せっかくですので、今後、アウル通信でご紹介させていただければと思います。
感謝

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